霧夜に現れし、見えざる同伴者

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※今回は少々不気味なお話となります。苦手な方はスルーしてください。

これは、今でもはっきりと思い出せる二十年前の夏の夜のこと。
入院中の家族を見舞った帰り道、私は深夜の山道をひとり車で走っていました。
子どもたちは実家に預けており 早く帰りたい一心で、普段は避けるダム沿いの細い道を選んだのです。
その道は、昼間でも車通りが少なく、対向車とすれ違うのも難しいほどの細道。
けれど、深夜ならすれ違うことなく通れるだろうと、私はハンドルを握りました。

しばらく走るうちに、霧が立ち込めてきました。
視界は白くかすみ、音が吸い込まれていくような静けさ。
まるで世界に自分ひとりだけのような心細さに包まれました。

そんな時、ふとバックミラーに白い車が映りました。
誰もいないはずの道に、もう一台の車が一定の距離を保ってついて来ている
その事実に、私は少し安心しました。
けれど、次第にその存在に違和感を覚えはじめたのです。

カーブを曲がっても、ミラーにはその動きが映らない。
「停車しているのかな」と思った瞬間、またぴたりと背後に現れる。
ヘッドライトの光も、エンジン音も、なぜか曖昧に。
ただ、そこに“いる”という感覚だけが、妙に鮮明だったのです。

やや不気味さを感じながらも、「一人よりは全然良い」と不思議な安堵感が勝り、
私はスピードを変えることなく走り続けました。

ダム脇の道を抜けたとき、白い車の姿は消えていました。
まるで、役目を終えたかのように。
私はただ、静かにハンドルを握りながら、胸の奥に広がる温かな感覚を味わっていました。

後々あの場所は有名な心霊スポットだと知りました。

私にとってあの体験が何だったのか、今となっては はっきりとはわかりません。
けれど、不思議と怖さよりも「守られていたのかもしれない」という感覚が残っています。
この世には、目には見えないけれど、そっと寄り添ってくれる存在がいるのかもしれませんね。

それは亡き人かもしれないし、高次の存在かもしれない。
あるいは、自分自身の魂が、時代を越えて自分を導いていたのかもしれません。

どうか、むやみに怖がらずに。
これは、ただの「不思議な夜の記憶」。
あなたの心に、静かな余韻を残せたなら嬉しいです。

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